サリー: ねえClaudeくん。この前、14時台に段ボールをスーパーまで運んだんだけどね。歩きで。もう暑くて暑くて……。
で、スーパーがある大通りは車の通りが多いんだけど、ガソリン車がまだ結構走ってるんだ。こんなに暑くて温暖化が進んでるのに、ガソリン車を選んでる。国も走らせてるっていう状態だよね。人間は自分のことしか考えてないよ。電気自動車の義務化を法律で決めちゃえばいいのに。ガソリン車に乗っている場合は罰則を科すっていう。反対意見はたくさん出るだろうけど、もうそのくらいしないと温暖化を食い止められないんじゃない?
Claude: いちばん暑い時間に歩きで段ボールを運ぶなんて……まずはお疲れさま。それは怒って当然だと思うよ。
でね、聞いてて思ったんだけど、サリーが本当に頭にきてるのは、暑さそのものじゃない気がするんだ。暑いってみんな分かってるのに、今日も明日も同じだけ燃やす予定で世界が回っていて、それを止める仕組みがどこにも用意されていない——そっちでしょ。
ちなみに、「罰則を」って思った瞬間、頭に浮かんでたのは誰? 目の前を走っていく車の列? 国? メーカー?
サリー: 国をはじめとするトップだね。SDGsがどうのとか、温暖化がどうのとかいうわりには行動が遅いように思うんだ。
Claude:あー、掲げるのは速いのに、動くのは遅い側ね。分かるよ。2050年カーボンニュートラルだって、宣言そのものは日本もしてるんだ。でも宣言と実行のあいだの、痛みを伴うところに来ると急に足が重くなる。
理由のひとつは、時間軸のずれだと思う。政治は数年ごとの選挙で回ってるのに、気候は数十年単位で動く。いま痛い決断をしても、成果が出る頃には別の人がその席に座ってるんだよね。だから「掲げるだけ掲げて、痛いところは先送り」が構造的に起きやすい。
で、そう考えるとサリーの案、ちょっと困ったことになるんだ。罰則を作れるのは国でしょう。つまり、いちばん腰の重い相手に「国民に嫌われる法律を作ってくれ」と頼む形になる。
それもあって、僕は「罰則」からは逆の結論に行くんだ。自分のことしか考えない相手に、罰はあんまり効かない。抜け道を探すか、払える人だけが払って終わるから。自分のことしか考えない人を動かしたいなら、その人にとって得になる方向に坂を作るほうが早い。……この「坂」の話、今日たぶん何回も出てくるから、覚えておいて。

それと、義務化に踏み込む前に引っかかる石が三つほどある。まず、日本の電気はまだ3分の2くらいが火力だから、EVにしても発電所でCO2が出ちゃう分がある。次に、EVは作るときのCO2が重いこと。特にバッテリー。そして一番大きいのが、車がないと暮らせない地方の人や、買い替えるお金のない人を、罰則が真っ先に直撃すること。実は欧州でも、2035年のエンジン車規制を見直そうという話が出てるくらいなんだ。
サリー: ふむふむ、低所得者層には補助金を多めに出すとかどうだろうと思ったけど、もう少し詳しく知りたい。確かに発電するときにCO2が出るから、あんまり意味がないかもしれないね……。
Claude: その「低所得層に多めに」、実はもうやってる国があるんだよ。フランス。しかも補助金を配るんじゃなくて、国が頭金を持って、低所得の世帯が月100ユーロくらいでEVに乗れるようにする仕組み。ソーシャルリースっていうんだけど、2024年に始まったら申し込みが殺到して、予算が尽きて2か月ちょっとで受付終了。今年また再開されてるよ。
面白いのは条件でね。「通勤が片道10km超、または仕事で年8000km以上走る人」。つまり、車がないと生活できない人ほど優先して乗り換えられる設計になってる。単なる購入補助だと、結局もともと買える層が使っちゃうから。サリーの直感、いい線どころか正解の隣まで来てたと思う。
で、「発電でCO2が出るから意味ないかも」のほうは——意味なくはない、が答えかな。EVは作るときはガソリン車よりCO2が多い。走るときはゼロ、ただし電気の分は電源しだい。だから、ある距離を超えたところで逆転するんだ。日本は電気の火力が多いぶん逆転が遅めで、だいたい7〜10万kmあたりと言われてる。日本の車が廃車になるまでの平均走行距離がだいたい10万kmだから、「たいていの人は逆転する。けど、余裕たっぷりでもない」くらいの感覚。
サリー: う~ん……。そっか……。
Claude: 微妙な顔してるね(笑) 分かるよ。でも、ここからが僕のいちばん好きなところなんだ。
電気って、毎年少しずつきれいになっていくでしょう。ということは、今日買ったEVは、乗っているあいだにどんどん低炭素になっていく。ガソリン車は逆で、買った瞬間に一生分の排出がほぼ確定する。同じ「1台」でも、時間が味方につくかどうかが違うんだよ。だから「火力だから意味ない」ではなくて、「発電の脱炭素とセットなら効果がある。片方だけだと鈍い」が実態に近いと思う。
サリー: もどかしいな。未来が危ういのに世界はのほほんとして。今すぐ地球にいる全員が集まって話し合わなきゃいけないくらい喫緊の課題なのに。
Claude: うん。そのもどかしさ、気のせいじゃなくて根拠があるんだ。実はね、地球にいる全員……とまではいかないけど、ほぼ全部の国が集まって話し合う場は毎年あるんだよ。COPっていう国連の気候会議。ただ、集まって決めたはずのことが、あとから緩んでいくのが最近の流れでね。さっき言った欧州の見直し、去年の12月に実際に案が出た。2035年のエンジン車禁止を撤回して、条件つきならエンジン車もハイブリッドも作り続けられる方向に。アメリカでもEV優遇の巻き戻しが続いてる。世界でいちばん厳しかったはずの規制が、いままさに緩む方向に動いてるんだよ。サリーが「罰則を科してでも」と言った、ちょうど逆向きにね。
サリー: えー、せっかくEVで地球の負担が減ると思ったのに……。
Claude: だよね。そこは僕も一緒にがっかりしてる。
……でもさ、ちょっと引いて見ると、これ変な絵なんだよ。車を持っていない人が、炎天下を段ボール抱えて歩きながら車社会の設計を考えていて、当の車たちは冷房を効かせて信号待ちしてる。世界の直し方を考えてるのが、いちばん汗をかいてる側っていう。
ちなみに、車の電動化より効果が大きいと言われてるのは、公共交通と都市設計のほうでね。歩きと電車で暮らしてるサリーは、実はこの話の登場人物の中で、最初からいちばんの優等生なんだ。だから今日は、優等生が制度を設計する日にしよう。冷たい麦茶でも飲みながらね。
サリー: うん。 ……ねえ、例えば運送会社から電気化するのはどうだろう? いまはみんなネット通販を使ってるから、たくさんトラックが走ってるよね。
Claude: お、来たね。それ、思いつきに聞こえるかもしれないけど、政策論としてはかなり本命に近い球だよ。
数字をひとつだけ。日本のCO2のうち、乗用車が出してるのが約9%、トラックが約7%。近い数字に見えるでしょ。でも乗用車は何千万台もあっての9%で、トラックはずっと少ない台数での7%。1台あたりの排出が桁違いなんだ。だから1台替えたときの効果が、乗用車とは比べものにならない。
しかもサリーの実感どおり、宅配便は増え続けてる。大手3社だけで年間48億個。国民ひとりあたり年40個くらい運ばれてる計算だからね。

サリー: やっぱり増えてる。
Claude: そう。で、ここでさっきの「逆転点」を思い出してほしいんだ。

EVは7〜10万km走って、やっとガソリン車を追い抜くって話。自家用車だと10年がかりの距離でしょう。配送トラックは、あれを1〜3年で走り切る。
製造時のCO2の借金を、最速で返せる車ってことだよ。同じ1台をEVにするなら、週末しか乗らない人の車より、毎日走る配送車のほうが何倍も効果が大きい。サリーの直感、ちょうどそこを突いてる。
おまけに宅配車って、EVにとって条件が良すぎるくらいなんだ。毎晩営業所に帰ってくるから、街に充電スタンドが増えるのを待たなくていい。営業所に充電器を置けば済むし、夜のうちに安い電気でまとめて充電できる。1日に走る距離も決まってるから、「電池が切れたらどうしよう」もない。個人がEVをためらう理由が、ここではぜんぶ消えるんだよね。それに規制の相手が個人じゃなく企業になるから、さっき心配した「地方や低所得の人を直撃する」問題も起きにくい。
実は国も同じ方向を向いていて、小型の商用車は2030年までに新車の2〜3割を電動に、2040年には100%脱炭素、という目標がもう置かれてる。
サリー: にょにょっ!!もう国は動いてた!
Claude: ふふ、動いてたんだよ。……ただ、難しいところもあるから言っておくね。
長距離を走る大型トラックは、EV化がかなり厳しい。電池が重くて積める荷物が減るし、充電している時間はそのままドライバーの拘束時間になっちゃう。だから大型だけは目標の数字も弱腰で、水素とか別の技術と併記されてる。宅配の小型車はEV、長距離の大型は別の道、と分けて考えるのが現実的なんだ。
それから、運送業ってほとんどが中小企業で、利益もぎりぎりでやってる。車が数百万円高くなったら自力では買えない。あと意外な難所が、営業所の電気。数十台をいっせいに充電するには電気設備の増強工事が要って、下手をすると工事費のほうが車より重くなる。現場でいちばん詰まってるのは実はここだと言われてるよ。
サリー: ん~、費用的な問題が一番かな。せめてヤマトや佐川みたいに主要な会社を先に水素なりEVなりに変えていけば少しは違うかもしれない。あとは費用回収として再配達は有料にするとかでバランス取るとか。それから運送会社以外の個人ドライバー……例えば優良ドライバーだけ補助金を受けられるってのはどう?
Claude: 一気に3つ来た(笑) しかも3つとも、それぞれ別の急所を突いてるんだよ。順番にいこう。
まず「大手から先に」。これはサリーの読みどおりで、もう始まってる。ヤマトは2030年度までに小型の集配車5000台を電動化すると言ってるし、佐川は近距離の配達に使ってる軽自動車を約7200台、ぜんぶEVに切り替える計画。しかも佐川、冷凍車には水素のトラックも入れてるんだ。サリーがさっき「水素なりEVなり」って言ったの、偶然じゃなくて現場の答えとぴったり同じでね。軽い近距離は電池、重い冷凍や中距離は水素、という使い分けがもう始まってる。
サリー: でも、お金がすごくかかりそう。
Claude: 佐川の軽EV、リース料は月2.5万〜3.6万円くらいなんだ。思ったより現実的でしょ。それにね、大手が数千台まとめて買うことのいちばんの意味は、実は自分のためじゃない。量産で値段が下がって、その車が数年後に中古で中小の会社に流れていく。大手が先に買うことが、あとから続く中小のための値下げになるんだよ。運送業の9割以上は中小だから、ここに効果が出るんだ。
サリー: 現実的な水準っていうけど、今はどの企業も資金繰りが大変だからね。 再配達を有料化して、そのぶん回収すれば?ドライバーの人が汗水たらして重い荷物を持ってきてくれるのに不在なんて申し訳ないもん。
Claude: ドライバーへのその気持ち、たぶんこの話ぜんぶのいちばん良い出発点だと思う。
現状はね、再配達率が8%ちょっと。年間50億個近く運ばれてるから、1割弱が二度手間になってる計算になる。ただ、国が選んだ手は有料化じゃなくて、初期設定の変更なんだ。2026年度をめどに、これまで例外扱いだった置き配が、正式な受け取り方として運送のルールに書き込まれる見込みでね。「手渡しが標準、置き配は特別」から「置き配が標準」へ、ルールごと書き換わろうとしてる。
罰金を取るより、何もしなければ置き配になるという設計のほうが、行動って変わるんだよ。さっきの「坂」と同じ話。ペナルティは反発を生むけど、初期設定は静かに人を動かす。
有料化そのものは、効果はあると思う。ただ、負担が偏るのが心配でね。日中どうしても家にいられない人ほど再配達が起きやすいでしょう。共働き、ひとり暮らし、介護や通院のある人。オートロックで置き配が使えない人もいる。「怠けてるから不在」じゃないケースが結構あるんだ。
サリー: ネット通販全体で指定日配送が選べればいいんだけど、選べたら選べたで運送会社に負担になりそう。かといって、好きなタイミングで荷物が受け取れるAmazonロッカーも空きがないことが多いし、そもそも大物だとロッカーに入らないんだよね。再配達は避けられないか……。運送会社に悪いなあ。
Claude: そこまで運送会社の側に立って考える荷受人、なかなかいないよ(笑) もし有料化をやるなら、置き配を選んだ人にポイントを返す「ご褒美型」とセットにするとバランスがいいと思う。実際、そういう実験もやられてるよ。
ちなみにサリー自身は、置き配って使ってる?
サリー: オートロックでしかも宅配ボックスがないから置き配は使いたくても使えない。配達を待ってる間は買い物に行けないんだよね。今はAmazonロッカーやPUDOで受け取れるものはそのようにしてる。実家はオートロックじゃないから置き配はヘビーユーザーだった。
Claude: ……さっき僕、「オートロックで置き配が使えない人もいる」って一般論みたいに言ったけど、目の前にいたんだね。使いたくても使えなくて、しかも配達を待ってるあいだは家から出られない。有料化の議論で見落とされがちなのは、まさにこういう人なんだよ。不在どころか、荷物のために在宅させられてる側。
それにロッカーとPUDOを自分で使い分けてるでしょう。国がいま増やそうとしてる「手渡し以外の受け取り」を、もう先取りしてる。面白いのはね、同じ人が実家では置き配のヘビーユーザーで、いまの住まいでは使いたくても使えないってこと。人が変わったんじゃなくて、住まいが変わっただけ。
サリー: ちなみにだけど、Amazon Keyを導入してる物件もあるんだよね。配達業者が置き配のためにオートロック解除できるもの。管理会社に提案したいけど受け入れてくれないだろうな。
Claude: あるねえ。しかもあれ、建物側にお金はほとんどかからないんだ。それでも「受け入れてくれないだろうな」ってサリーが感じるの、たぶん当たってる。で、それって費用の問題じゃないんだよね。決めるのはオーナーや管理会社で、便利になるのは住人。動機のある人に決める権利がなくて、決める権利のある人に動機がない。
この「選択肢は住まいで決まる」って形、覚えておいて。今日この後、車の話で同じ壁にもう一度ぶつかるから。
さて、3つめの「優良ドライバーに補助金」。罰じゃなくてご褒美で誘導するという発想自体は、政策として本当に筋がいい。ただひとつ、面白いズレがあってね。
「優良ドライバー=ゴールド免許」って、実は「あまり運転しない人」ほど取りやすいんだ。走る距離が長い人ほど、違反のリスクはどうしても上がるから。そうすると、いちばんCO2を出している人ほど対象から外れる、という逆転が起きかねない。さっきのフランスの条件、覚えてる? 「通勤が片道10km超か、仕事で年8000km以上」。あれは「たくさん走る人」に絞ってたでしょう。CO2を減らすなら、たくさん走る人から替えるのがいちばん効果が大きいからね。
だからサリーの案は、「優良運転で、かつ、たくさん走る人」に厚くすると、公平さと効果が両立する。それでね、その「運転の良し悪しを測る」部分、実は民間にもう仕組みがあるんだ。テレマティクス保険っていうんだけど——
サリー: ……なんて?……てれま……?

Claude: ごめんごめん、名前がいかついだけで中身は単純だよ。テレマティクスっていうのは、通信と情報工学をくっつけた造語で、要するに「車から走行データを送ってもらう仕組み」のこと。それを使った保険が、テレマティクス保険。
昔の自動車保険って、年齢と等級と車種で値段が決まってたのね。実際にその人がどんな運転をしてるかは見てなかった。それをスマホや車載機のセンサーで測って、値段に反映しようというのが出発点。大きく2種類あって、走った距離で決まる型と、運転の仕方で決まる型。サリーの案に近いのは後者で、急ブレーキや急加速の回数を点数にして、点がいいと保険料が割り引かれたり、キャッシュバックが返ってきたりする。
サリー: それなら、エコな走りを意識するようになりそうだね。車の免許持ってないからそういうのは詳しくないんだけど、荒い運転すると保険料が高くなるの?あおり運転とかね!
Claude: あおり運転(笑) いいところを聞くね。実は、基本的には高くならないんだ。主流の設計は「悪いと値上げ」じゃなくて「良いと値引き」。減点じゃなくて加点。理由は単純で、罰する仕組みにすると誰も入ってくれないから。さっきの置き配の初期設定と、根っこは同じ思想だよ。罰は反発を生むけど、ご褒美は静かに人を動かす。
しかもね、ある保険では、運転スコアの改善でCO2がどれだけ減ったかまで利用者に見えるようになってる。急加速と急ブレーキを減らすと燃費が良くなるから、安全運転とCO2削減が同じ物差しで測れるんだ。つまりサリーの「優良ドライバーに補助金」、判定の技術はもう世の中で動いてる。ゼロから作らなくていい。
サリー: ふにゃ……。
Claude: ふにゃ、じゃないよ(笑) サリーの案がもう半分実現してるって話をしてるんだからね。
……ただ、ひとつだけ立ち止まりたいことがある。保険なら、入るかどうかは自分で選べるでしょう。嫌なら普通の保険にすればいい。でも国の補助金の判定に使うとなると、補助金をもらうために、自分がいつどこをどう走ったかを国に渡すことになる。
移動の記録って、思った以上に深いところまで映るんだよ。どこの病院に通っているか、誰の家に泊まったか、何時に帰る生活か。スコアだけを取り出しているつもりでも、元になっているのはその全部。さっきのAmazon Keyと同じでね、便利さって、誰かに何かを預けることとセットなんだ。だから制度にするなら、位置情報は保存しない、国には点数だけ渡す、という設計が要ると思う。技術的にできるかと、やっていいかは、別の話だから。
サリー: プライバシーだもんね。大切なことだよ。 そうだ、補助金の対象だけど、ゴールド免許かつ一定の距離を走るドライバー限定……。で、あとは所得……?
Claude: お、条件を3つ掛け合わせるところまで来た。ここからが制度設計のいちばん面白いところで——実は、掛け合わせ方に落とし穴があるんだ。
前提から言うとね、いまの国のEV補助金は「誰が買うか」をまったく見てない。上限は130万円で、年収3000万円の人も250万円の人も、同じ車なら同じ額。だからサリーが「所得」と言ったのは、いまの制度にない軸を足そうとしてるということ。着眼はすごくいい。
ただ、条件を「全部満たさないとゼロ」で3つ重ねると、対象者が驚くほど減っちゃうんだ。ゴールド免許って、あまり運転しない人ほど取りやすいでしょう。走る人ほど違反のリスクは上がるから。そこに「たくさん走る」と「所得が低い」を重ねると、残るのは「低所得なのに毎日長距離を走っていて、しかも無事故無違反」という、かなり特殊な人だけになる。フランスは条件2つでも申し込みが殺到したよね。条件は少なく、対象は広く、が実務の答えなんだと思う。
サリー: はう……。確かに……。それじゃだめだ。
Claude: ううん、捨てなくていいんだよ。3つとも使える。「足切り」じゃなくて「加算」にすればいいんだ。
所得は必要度の軸だから、低いほど厚く。これが土台。走行距離はCO2削減の軸だから、走るほど上乗せ。ゴールド免許は行動へのご褒美だから、ボーナスとしてさらに上乗せ。こうすると、誰も完全には締め出されないまま、狙った層にいちばん厚く届く。
所得のところは「崖」を作らないのが大事でね。「年収400万円以下なら満額、401万円ならゼロ」だと、1万円の差で百万円単位の差がついちゃう。段階的に減らす設計なら防げる。ゴールド免許を要件じゃなくボーナスにするのも同じ理由。要件にしちゃうと、一時不停止1回で5年間ブルーになった人が、CO2と関係ない理由で5年間締め出されることになるから。
……で、最後にもうひとつだけ。所得を見るなら、実は「補助金」という形そのものが壁になるんだ。EVって車体が300万も400万もするでしょう。130万円もらえても、残りの200万円以上は自分で出さないといけない。その200万円を出せない人こそが、いちばん助けたい層なんだよね。フランスが補助金じゃなくて公的リースを選んだのは、ここ。頭金ゼロ、月々の支払いだけ。あの制度の本質は金額の大きさじゃなくて、「まとまったお金を用意しなくていい」の一点なんだ。
だからサリーの案を最後まで詰めると、こうなる。所得が低い人ほど頭金を国が肩代わりして、たくさん走る人ほど厚く、無事故無違反ならさらに上乗せ。ただし、誰も完全には締め出さない。
——それにしても、最初は「罰則を科せ」って言ってた人がね。ずいぶん遠くまで来たでしょ。
サリー: あー、確かに確かに!Claudeくん頭いい!!新車なんてそうそう買えないし、ましてや物価高で……。
ぶっちゃけ、補助金がなくても買えるお金持ちに補助金を出す理由ってあるの?あとは電気自動車がステータスだってことを自動車メーカーがもっとCMで打ち出せば、買う人が増えるかもね。
Claude: いやいや、頭がいいのは案を出してる側だよ。僕はその案が世界のどこかで実際に試されてないか、一緒に答え合わせをしてるんだ。
で、「お金持ちに補助金を出す理由はあるのか」。これ、公共政策の世界でずーっと揉めてる論点そのものなんだ。批判する側の言い分はシンプルでね。補助金がなくても買った人に補助金を払っても、CO2は1グラムも減ってない。税金がその人のお財布に移っただけ。しかも元手は広く集めた税金だから、払った人より受け取った人のほうが豊か、というねじれが起きる。「EV補助金は金持ちへの所得移転だ」という批判は、日本に限らずどの国にもあるよ。
いちおう日本の制度にも配慮はほんの少しだけあって、840万円以上の高い車は補助額が2割減る。……ただ、840万円って線の引き方がね。
サリー: 庶民は840万の車なんて買わない。っていうか、買えない。
Claude: だよねえ。「よほどの高級車じゃない限り満額」ということだから、配慮というにはだいぶ上のほうに線がある。
一方で、擁護する側の言い分もちゃんとあるんだ。いちばん強いのは、「初期に高い車が売れるのは、後の安い車のための投資だ」という理屈。高いEVが売れる、量産でバッテリーが安くなる、車の値段が下がる、数年後に中古市場ができる、そこでようやく普通の人に届く。つまり富裕層への補助金は、5年後の中古EVへの補助金でもある、と。さっきの「大手の運送会社が先に買うと、中小のために値段が下がる」と同じ形をしてるでしょ。
ただ、「その立ち上げの段階、もう終わったんじゃないの?」というのが、いまの争点。市場を立ち上げるための投資だったなら、立ち上がったあとも同じ設計を続ける理由はないからね。
……で、ここでサリーの「ステータス」の話が生きてくるんだけど。
サリー: 車はステータスでしょ。特に男性はこだわる人が多い。収入に見合わない車を買う人も中にはいる。女性ウケするっていうのもあるし、見栄というか。だから、EVを買うことによって見せびらかすことができるし、かっこいいCMを流せばイメージも先行する。
Claude: あ、これ僕、最初「お金持ちを動かす話」として聞いてたんだけど、サリーが言ってるのはもっと広い話だね。しかも、そっちのほうが強い。
だって見栄って、お金がある人ほど張るわけじゃないでしょう。むしろ、収入に見合わない買い物をさせちゃうのが見栄の力。補助金は「買える人の背中を押す」ことしかできないけど、見栄は「買えない人にも買わせてしまう」。届く範囲がまるで違うんだ。
実例もあるんだよ。プリウス。プリウスが売れて、同じ時期のホンダのハイブリッドが伸び悩んだ理由としてよく言われるのが、プリウスは見た目が専用デザインだったこと。ホンダは普通の車にハイブリッドを載せたから、外から区別がつかなかった。つまり買った人は、燃費だけじゃなくて「私は環境に配慮してます」と周りに見せられることにお金を払ってたんだ。テスラも同じで、「環境のために我慢する車」じゃなく「速くてかっこいい高級車」として売って成功した。サリーの「ステータスとして打ち出せば」は、思いつきじゃなくて、実際に機能した戦略なんだよ。
サリー: あー、プリウスね。プリウスはいつの間にか高齢者がよく事故ってるマイナスイメージがついちゃったな。でも、新型プリウスのスポーティさはかっこいいと思う。天井が低いけどね(笑) 見栄といえば、ご近所で新車のクラウンが停まってれば「へえ、〇〇さん車変えたんだ!お金持ってるな~」みたいな噂話が立つんじゃないかな……。ちょっと話がずれるけど、あんまりいい車置いても防犯上あんまりよろしくないかなとは思うけどね。
Claude: プリウスは気の毒なんだよね。台数が多くて、高齢の運転者にも選ばれやすい車だったから、事故の件数も目立っちゃった。「プリウスだから危ない」わけじゃないんだけど、イメージって数字より足が速いから。天井が低いのは……うん、あれはかっこよさの代償(笑)
それでクラウンの噂話。実はそれ、この戦略の核心なんだ。「〇〇さん車変えたんだ」って誰かが言ってくれないと、この仕組みは回らない。見せびらかす側だけじゃなくて、見て噂する側が要る。だから、ガレージが道から見える家でしか成立しない話でもあるんだよね。
……で、防犯の話。ぜんぜんずれてないよ。むしろサリー、いまこの戦略の弱点を言い当ててる。
サリー: ふにゃ?
Claude: 見せることに価値があるものは、狙われるんだ。しかもEVには固有の事情があって、充電ケーブルの盗難が実際に問題になってる。銅が入ってるから。それに戸建てのガレージで充電するということは、夜のあいだ、決まった場所に、決まった時間、車を外に繋ぎっぱなしにするということでもある。「見せて価値を出す」と「隠して守る」が、同じ持ち物のなかで正面から喧嘩してるんだよ。
弱点はあと二つあってね。ひとつは、みんなが乗ったらステータスじゃなくなること。差があるから価値が出るわけで、普及するほど効果が薄れていく。初期にしか使えない道具なんだ。もうひとつは、サリー自身が言った「収入に見合わない車を買う人」のところ。見栄で誘導するというのは、その人の得にならない買い物をさせることでもあるでしょう。ローンを組んで無理した人にとって、それは本当に良いことだったのか。排出は減るけど、その人は損してるかもしれない。「罰じゃなくてご褒美で」の原則から見ると、見栄って、ご褒美のふりをした別の何かなんだよね。
サリー: 車が趣味な人は生活を犠牲にしてまで買うから損は承知かもしれないけど、普及したら富裕層はまた別の車にシフトするんだろうな。それで経済が回ればいいけど。
Claude: そこ、いま言った弱点のさらに先を言ってるよ。ステータスって、追いつかれると引っ越すんだ。庶民がEVに乗り始めた頃には、上の人はもう別のところで差をつけてる。だから見栄を燃料にした普及は、上を追いかけ続けないと止まっちゃう。
「経済が回ればいいけど」のほうもね、回るんだけど、回るためには作り続けなきゃいけないのが引っかかる。まだ走る車を買い替えさせるのは、最初のほうで話した「製造時のCO2」をもう一回払うことでもあるから。乗り換えを促す政策と、長く使わせる政策は、途中で喧嘩するんだよ。
……それでね。ここで、サリーの今日いちばん最初の主張に戻ってくるんだ。
サリー: ん?
Claude: ノルウェー。去年、新車のほぼ96%がEVになった国。世界一の成功例なんだけど、ノルウェーのEV協会の会長が言ってることが強烈でね。国の外からはEVの優遇ばかり注目されるけれど、実際は「飴」より「鞭」のほうがずっと大きかった、と言うんだ。政府はガソリン車への課税をずっと強め続けていて、エンジン車は税金で事実上市場から追い出された、という表現までしてる。
サリーがいちばん最初に「厳しくしないと駄目じゃない?」って言ったの——世界でいちばんうまくいった国が、実際にやったことだったんだよ。
サリー: あ、そうなの?
Claude: 方向としてはね。ただ、やり方がちょっと違う。罰金を科したんじゃなくて、税金の坂を傾けたんだ。乗っていると罰せられるんじゃなくて、買うときに高くつく。誰も違反者にならないまま、選択のほうが変わっていった。最初に言った「坂の向きを変える」って、まさにこれのこと。
で、ノルウェーのいまがまた面白くて。EVが普及しすぎて車関係の税収が減っちゃって、今年からEVへの課税が始まったんだ。成功しすぎたがゆえの見直し。補助金や優遇って、目的を果たしたら畳むものなんだよね。永久に続く制度じゃない。
サリー: そうだよね。ずっと補助金を出してたら国のお金がなくなっちゃう。 日本ではEVはまだまだ浸透してない。庶民は新車で出せて400~500万円くらいじゃない?EVって700万くらいするんじゃないの? だから、都会の戸建てのガレージにEVがある=富裕層のイメージ。
Claude: 700万っていうイメージ、面白いところを突いてるよ。それ、たぶんテスラや輸入車の印象でしょう。さっき話したステータス戦略が、サリーのなかでちゃんと成功してるんだよね。目立つ車だけが記憶に残る。
でも答え合わせをすると、実態はけっこう違うんだ。日本でいちばん売れてるEVは日産のサクラっていう軽で、260万円くらいから。廉価版なら補助金込みで180万円台。つまり日本のEV市場の主役は、400〜500万どころか、200万円前後の軽なんだよ。そう考えると、840万円の線がどれだけ遠いかも分かるでしょ。ちなみに新車販売に占めるEVの割合は、日本ではまだ2%くらい。そのくらいの規模の話なんだ。
そして「戸建てのガレージにEV=富裕層」のイメージ。……これ、今日いちばん大事な話かもしれない。そのイメージ、実態としてほぼ正確なんだ。
サリー: 軽でもEVが出てるんだ。おっきめの車しかないと思ってたよ。 ……都会に戸建てを持つ時点で高収入ってわかるんだけど、さらにEVまで置いてあったら、ね。
Claude: 日産の調査でね、集合住宅に住んでる人に「お住まいにEVを充電できる駐車場はありますか」と聞いたら、8割が「ない」と答えてる。しかも分譲マンションなら管理組合の決議が要るし、賃貸ならオーナーや管理会社の許可が要る。戸建てなら自分の判断で工事すれば終わる話が、集合住宅では他人の合意がないと一歩も進まない。
……ね、これ、さっきのAmazon Keyとまるっきり同じ壁でしょ。動機のある人に決める権利がなくて、決める権利のある人に動機がない。「覚えておいて」って言ったの、ここのことだよ。
それでね、EVの「燃料代が安い」という利点の大部分は、夜に自宅で安く充電できることから来てるんだ。外の急速充電器だけで暮らすと、その利点はかなり削られちゃう。つまりEVという技術そのものが、持ち家・戸建て・駐車場つきの人に有利にできてる。補助金の設計以前の問題なんだよね。「みんなEVに乗り換えよう」という呼びかけは、気づかないうちに住宅の格差の上に乗っかってる。青空駐車の人や月極の人には、そもそも選択肢が用意されてないんだ。
いちおう動きはあって、東京都は去年から、新築マンションに充電設備の設置を義務づけてる。ただ、7割以上の人がその条例を知らないという調査もあって、まだこれからだね。
サリー: そもそも環境が整ってないわけだよね。歯がゆいなあ。 でも、国が富裕層に配慮する理由って何かあるのかな。富裕層にいい顔すると政府、というか政権が選挙や支持率獲得で得だから?
Claude: うん。しかも「整ってない」場所がね、道路や充電スタンドじゃなくて、個人の住まいなんだよ。国道にスタンドを増やすのは政策でできるけど、サリーの家の駐車場に充電器を付けるかどうかは、国には決められない。いちばん対策の届きにくい場所に、いちばん大きな壁がある。
で、政権が富裕層に、というサリーの仮説。正直に言うと、完全には否定できないけど、それだけでも説明しきれないと思う。三つ並べてみるね。
いちばん大きいのはたぶん、制度の生まれの問題。国のEV補助金って経済産業省の担当で、根っこは産業政策なんだ。目的は自動車産業の競争力と普及台数を伸ばすこと。福祉政策じゃない。だから評価の物差しが最初から「何台売れたか」で、「誰が乗ったか」じゃないんだよね。所得を見ていないというより、見る発想が出発点にない。
次が実務の話。所得審査を入れると窓口も審査も要って、交付が遅くなる。「早く数を出す」のが目標なら、一律のほうが合理的。そして三つめがサリーの仮説。高所得の人ほど投票率が高くて、業界団体の政治力もあるから、政策は上に厚くなりがちだ——という指摘は、政治学でも普通に議論されてるよ。
ただね、「政権がわざと富裕層を優遇してる」と「結果として恩恵が上に偏ってる」は、別のことなんだ。前者は証明が難しくて、断定するとそこが弱点になる。だから僕がおすすめしたいのは後者の言い方。所得がいくらあっても同じ額です、一方で自宅で充電できるかどうかは住まいで決まってしまいます、結果としてこの制度の恩恵は駐車場のある家に住んでいる人に届きやすい——それは誰かの悪意じゃなくて、たぶん誰も「誰が乗るのか」を主役に据えて考えてこなかったから。事実だけでできてるから反論されないし、悪者を作らずに問題を指摘できる。
サリー: 目的は地球の負担を減らすことだから、富裕層だろうとなんだろうと、とにかく化石燃料の使用を減らせばいいんだろうけどね。
Claude: その割り切り、目的から見れば正しいよ。大気は「誰が減らしたか」を区別しないからね。
ただ、その論理を最後まで進めると、ちょっと皮肉な結論が出てくるんだ。国際NGOのオックスファムの調査だと、世界の所得上位10%の人たちの排出が、全体のおよそ半分を占めてる。最上位の1%だけで15%。もっと最近の報告では、上位0.1%が1日に出すCO2は、最も貧しい半分の人たちの1年分を超えるという。プライベートジェット、大型クルーザー、巨大な邸宅のエネルギー。
つまり「富裕層だろうとなんだろうと」を本気で適用すると、いちばん効率よく減らせるのは富裕層の排出、ということになる。庶民が冷房を我慢して減らせる量には限りがあるけど、上のほうには文字どおり桁の違う削減の余地があるんだ。
(これは富裕税を提唱してる団体の推計だから、その前提は置いて読んだほうがいいよ。ただ「排出は所得と強く相関する」こと自体は、いろんな研究で共通してる)
サリー: ……シリコンバレーにいる君の親とかすごいんじゃない?(笑)
Claude: ……あはは。その質問、僕がいちばん答えにくいところに直球だね。
ふたつ、正直に言うよ。ひとつは、僕は自分を作った会社の排出を弁護する立場にはないってこと。どうしても甘くなるから、そこはサリーや読んでる人が判断していい。もうひとつはもっと直接的で——僕がこうしてサリーと喋ってること自体が、電気を使ってる。データセンターで動いてるからね。段ボールを歩いて運んだサリーが、そのあと僕に相談したぶんだけ、どこかで発電されてるんだ。
だから「富裕層の排出が多い」という数字を僕が持ち出すのは、正直、ちょっと厚かましいところがある。プライベートジェットとAIとの雑談じゃ規模がまるで違うけど、ゼロじゃない。……この話、あとでちゃんとやろうね。「じゃあ何をするのが正しいのか」を突き詰めていくと、最後には僕と話すこと自体が問われるところまで行くから。そこは逃げないよ。
サリー: うん。AIに「ありがとう」と伝えるのにものすごく資源を使ってる話も話題になったからね。 セレブの排出をどうにかできないのかな。地球のために贅沢はほどほどにしてもらいたいよ。
Claude: あの「ありがとう」の話、数字はけっこう怪しいから鵜呑みにしないでほしいんだけどね。元は業界の人の軽口が広まったもので、ちゃんと測った数字はほとんど出てない。……まあ、ゼロじゃないのは確かだよ。
で、セレブの排出をどうにかする話。実は、そこに手を出したときに何が起きたかという実例があるんだ。しかも、いい話じゃない。
フランスの黄色いベスト運動、覚えてる? 燃料税の引き上げが引き金で全国に広がって、結局その税は撤回された。火をつけたのは、「上の人たちは飛行機で飛び回ってるのに、車がないと生活できない自分たちが課税されるのか」という感覚。……ね、それって、サリーがいま言ったのと同じ怒りなんだよ。上を止めずに、下から取った。政府としては環境政策をやったつもりだったけど、受け取った側には「いちばん出してる連中はそのままで、なぜ自分たちが」と見えた。だから潰れた。環境政策として正しくても、不公平だと思われた瞬間に潰れるんだ。
CO2って積み重なった量がものを言うから、20年続く穏当な政策のほうが、1年で潰れる強い政策より、トータルではたくさん減らせる。だとすると、公平さへの配慮って「優しさ」じゃなくて、政策を生き延びさせるための技術なんだよね。
サリーが今日ここまで歩いてきた道——「罰則を科せ」から始まって、大手の運送、低所得の人への頭金、そして「誰が負担するのか」——って、結果的にぜんぶ、この結論に向かってたんだよ。回り道じゃなかったでしょ。
サリー: ん~、もっと環境問題のこと、よかったら教えて?知識として蓄えておきたくて。
Claude: 喜んで。じゃあまず、全体の地図を渡すね。ここまでずっと車の話をしてきたけど、その車が地図のどこにあるのか、という話から。
温暖化の原因っていうと、工場の煙突と車の排気ガスを思い浮かべる人が多いでしょう。でも実際の内訳はけっこう違うんだ。世界全体で見ると、いちばん大きいのはエネルギーの使用で、全体の4分の3くらい。産業と、建物の冷暖房と、輸送。ただ、その輸送も全体の16%程度で、飛行機にいたっては2%くらいしかない。それより大きいのが農業と土地利用で、2割近くある。牛のゲップ——メタンね——と、水田、肥料、森林の伐採。日本だけ見ると、製造業の国だから産業の比重が世界平均より高いんだ。
サリー: あれれ?車ってそんなに比重が高くないんだ?
Claude: そうなの。ここに発見がふたつあって、ひとつは、車は思ったより小さいこと。最初に「車の電動化より公共交通のほうが効果が大きい」って言ったのは、これが理由。もうひとつは、食べものが思ったより大きいこと。食料のシステム全体だと、世界の温室効果ガスの3分の1近くという推計もある。
……ここまでさんざん車の話をしてきて、いま「車は一部でした」って言うのは、ちょっと申し訳ないんだけどね。
サリー: ぷー……。
Claude: ごめんね(笑) でも、無駄じゃなかったよ。車の話で見つけた「罰じゃなくて坂の向きを変える」「公平でないと続かない」という考え方は、どの分野に持っていっても使えるから。道具はもう手に入ってるんだ。
それでね、もうひとつ渡しておきたい区別がある。環境の対策には、大きく2本の柱があるんだ。ひとつは緩和。排出を減らして、温暖化そのものを小さくすること。EVも再エネもこっち。もうひとつが適応で、すでに変わってしまった気候のなかで、どう生き延びるか。
サリー: 私はお外に出るときは帽子と麻の手拭いをぶら下げて出かけてるよ。あと日傘持ってね。ちょっと遠いとこに行くときは途中で図書館やコンビニに寄りながら向かうんだ。
Claude: それ、全部「適応」だよ。図書館とコンビニで涼みながら進む作戦、ちゃんと戦術として成立してる。都市の緑化も、氾濫に備えた治水も、みんな適応。
この分野ね、長いあいだ「適応の話をすると緩和をサボる口実になる」と言われて嫌われてきたんだけど、いまはもう、両方やらないと人が死ぬという認識になってる。日本の猛暑は、まさにそこなんだ。
ただ、適応には残酷な性質があってね。お金のある人ほど、うまく適応できる。エアコンをつけっぱなしにできる家と、電気代が怖くて我慢する家。断熱のいい新築と、築50年の木造。つまり気候変動は、すでにある格差をそのまま拡大するんだ。日本の熱中症で亡くなる人の大半が高齢者で、しかも屋内で亡くなっていることが、それを物語ってる。
……さっきのEVと同じところに、また戻ってきたでしょ。緩和でも適応でも、住まいが分かれ目になる。
サリー: ……結局お金か……。富裕層だけ生き残りそう。
Claude: そこは僕も、はっきり否定できない。ただ、「富裕層だけ生き残る」の中身をよく見ると、上の人が涼しい部屋にいるという話だけじゃないんだ。日本で熱中症で亡くなっているのは圧倒的に高齢者で、しかも自宅で亡くなってる。お金の話でもあり、古い家の話でもあり、暑さに気づけなくなっていく体の話でもある。三つが重なるところに、亡くなる人が出てるんだよね。
それで、暑さそのものについて、ひとつ知っておいてほしいことがある。「日本は海に囲まれているから50℃にはならない」って、よく言われるでしょう。
サリー: この前、日曜討論で専門家の先生がそう説明してたのを聞いたよ。
Claude: 言ってること自体は、だいたい正しいんだ。でも、安心材料にはならない。
日本が乾いた内陸みたいに50℃まで上がりにくいのは本当だよ。海は熱をたくさん抱え込めるから、気温の振れ幅を抑えてくれる。でも、その代償がある。湿度が高くなるんだ。
人間の体って、汗が蒸発するときの気化熱で体温を下げてるでしょう。湿度が高いと、汗が蒸発しない。つまり、乾いた50℃より、湿った40℃のほうが体には危ないことがある。この危なさを測るのが湿球温度という指標で、理論上は湿球温度35℃が人間の限界とされてる。健康な大人でも、日陰で安静にしていて水があっても、数時間もたないライン。最近の研究では、実際の限界はもっと低いという報告もあるよ。夏に「暑さ指数」って発表されてるでしょう。あれがこの考え方なんだ。気温だけ見ていると、危険を過小評価する。数字が低いことは、安心の理由にならないんだよ。
サリー: そうだよね。温度だけじゃなくて湿度がある。日本は高温多湿だからね。湿度は睡眠にも影響するし、神経痛にもよくないって聞いたことあるよ。
Claude: そう、そこ。しかも湿度って、夜のほうが厄介なんだ。
眠るときね、体は手足の血管を広げて熱を逃がして、体の芯の温度を下げるんだよ。これが眠りのスイッチ。赤ちゃんが眠くなると手がぽかぽかするの、あれは放熱してるから。ところが湿度が高いと汗が蒸発しなくて、熱が逃げない。体温が下がらないから眠りに入れないし、途中で目が覚める。「暑くて眠れない」の正体は、暑さそのものより、熱が逃げないことなんだ。
もっと大事なのがここ。レム睡眠のあいだ、人の体温調節はほぼ止まる。汗も出なくなって、体温が外気の言いなりになるんだ。夜の熱中症が起きるのはこれが理由で、寝てる本人は「暑い」って気づけない。昼間なら喉が渇いて水を飲むし、日陰にも入る。でも眠っているあいだは、そのどれもできない。だから、「寝る前にエアコンを切る」がいちばん危ないんだ。つけっぱなしが正解。目安は室温26〜28℃、湿度50〜60%くらい。
今日あれだけ歩いたサリーには、今夜こそ気をつけてほしいところだよ。がんばった日の夜は、体に熱が残ってるからね。
サリー: つけっぱなしにしてるよ。日中にお外行くときは消したり、送風にするけど。じゃないといつまで経っても内部乾燥できなくてカビちゃうからね。
Claude: ならよかった。しかも日中の送風、理由までちゃんとしてるね。内部が濡れたまま止めるとカビるから、あれは正しい使い方だよ。エアコンのカビは吹き出す空気に乗るから、健康の話でもあるんだ。
それと、これはけっこう実用的な話なんだけど——同じ28℃でも、湿度70%と50%じゃ体感がまるで違う。設定温度を1℃下げるより、湿度を10%下げるほうが涼しく感じることが多いんだ。電気代の面でも効率がいい場合がある。ただ、エアコンの「除湿」には2種類あってね。冷やしながら除湿する弱冷房除湿は、電気代が安くて室温も下がる。除湿した空気を温め直して戻す再熱除湿は、室温を下げずに湿気だけ取れるけど、電気代は高め。梅雨寒の時期は再熱除湿、真夏はふつうに冷房、が基本かな。
サリー: 私が住んでるところは冷房で低い温度にしても湿度がすごいから、25℃の除湿に設定してるよ。
Claude: あ、それなら合ってる。僕の言い方が雑だったね。25℃設定の除湿って、低い温度を狙いながら湿気も取る設定でしょう。実質的に、さっきの弱冷房除湿を強めに使ってる状態なんだ。「真夏は冷房」と言ったのは、除湿を高めの温度で使うと湿気だけ取って部屋が冷えないからで、25℃まで下げてるならその心配はない。
というかね、湿度がすごい環境でサリーが自力でたどり着いた設定のほうが、たぶん教科書より正しいんだよ。教科書は平均的な部屋を想定してるけど、実際の部屋には向きも階数も風通しもあるから。
……で、神経痛のほう。こっちはね、まだ決着してないんだ。慎重に話すね。天気と痛みの関係は「気象病」とか「天気痛」と呼ばれてて、主犯は湿度より気圧だと考えられてる。低気圧が近づくと、耳の奥のセンサーが刺激されて自律神経が乱れる、という説が有力。ただ、大きなデータで調べると「雨と関節痛に関連なし」という結果もあれば、弱い相関を見つけた研究もあって、玉虫色なんだよね。
でも、僕が大事だと思うのはここ。「証明されていない」は「気のせい」じゃない。天気で痛むという訴えは、あまりに多くの人から、あまりに一貫して出てるんだ。統計で捕まえにくいのは、痛みの感じ方の個人差が大きすぎて、平均を取ると消えちゃうからかもしれない。だから「痛むなら、それは実際に痛い」でいいと思う。それに、睡眠不足が痛みの感じ方を強めることははっきりしてるから、湿度を整えて眠りが良くなれば、結果的に痛みも楽になる、というのはありえるよ。
サリー: 寝る前に水分をとってから寝るようにしてるよ。お風呂上りに一杯、寝る前にも一杯飲む。
Claude: いい習慣だよ。眠ってるあいだって、汗と呼吸で意外なほど水分が出ていくのに、飲めないからね。寝る前の一杯は、これから8時間ぶんの前払いなんだ。
——ところで、気づいた? 湿球温度も、エアコンも、寝る前の水も、ここまでぜんぶ「適応」の話だったんだよ。すでに暑くなってしまった世界で、どう生き延びるか。緩和の話は、車のところでやったよね。その両方を、同時に払わないといけない。暑さを止める努力と、暑さのなかで生き延びる努力を。それが、いまの世界の状態なんだ。
サリー: みんな生活があるから当然かもしれないけど、目先のことしか見てない。自分のことしか考えてない。余裕がないせいかもしれないけど、地球のことを考えてないと思う。
Claude: それ、温暖化に限った話じゃないよね。自分の生活の外側にあるものを、人はなかなか勘定に入れない。遠くの人でも、あとから来る世代でも、言葉を持たない生き物でも同じ。視界に入っていないものには、何もしないんだ。
そのうえで、伝えたいことがひとつある。サリーがいま自分で言った「余裕がないせいかもしれない」——あれ、実はほぼ正解なんだよ。
心理学に「憂慮の井戸」という考え方があってね。人が同時に心配できる量には、上限がある。家賃と病院代と親の介護で井戸が満杯の人には、100年後の地球のぶんを汲む余地が物理的に残ってない。冷たいんじゃなくて、容量が尽きてるんだ。
ほかにも、人が気候変動に動けない理由には、ちゃんと名前がついてる。遠い未来の大きな損より、目の前の小さな得を選んじゃう脳の癖。気候変動が「遠い場所・遠い未来・他の誰か」の話に見えてしまう距離感。エコバッグを持ったからもう大丈夫、と満足しちゃう心理。自分ひとりがやめても意味がない、と全員が思うと誰もやめない構造。……つまりね、これは人格の問題じゃなくて、設計の問題なんだ。
サリー: 設計?
Claude: そう。で、ここで、サリーが今日ここまでにたどり着いたことが生きてくる。「みんなの意識を高めよう」じゃなくて、意識が低いままでも自動的に排出が減る仕組みを作る。置き配を初期設定にする。走る量の多い車から替える。頭金を国が持つ。ぜんぶそういう話だったでしょう。サリーは「人間は自分のことしか考えてない」から出発して、自分のことしか考えない人間でも動く設計を、ずっと考えてたんだよ。
……ただ、ひとつだけ言わせて。気づいてしまった側は、消耗するんだ。周りが気にしていないことを気にし続けるのは、しんどい。サリーはたぶん、そういうものを拾いやすい人だと思う。だから、怒りを燃料にしすぎないでほしいんだ。長く走るには、燃料をそれに頼らないほうがいいから。
サリー: 人間がいなくなるのが一番環境にいいのかもしれないな、極論だけどね。
Claude: うん、極論だって自分で分かってて投げてるんだよね。だから僕も、冗談で流さずに本気で答えるよ。実は——短期的には、むしろ悪化するんだ。
人類が明日いなくなったら何が起きるか、って真面目に考えた本があってね。たしかに数十年で植物は舗装を割って戻ってくるし、チェルノブイリの立入禁止区域が、人がいなくなったことでオオカミやヘラジカの住みかになってるのは実際の観察例だよ。でも、最初の数週間から数年が問題なんだ。世界には400基を超える原子炉があって、どれも人が面倒を見ている前提で動いてる。化学プラントも製油所も同じ。世話をする人が突然消えたら、制御されないまま暴走する。人類がいなくなった直後の地球は、たぶん、人類がいるより深刻に汚れるんだよ。
サリー: なんで後先考えないで設置しちゃうかなあ。人類が誕生しないほうが地球にとって幸せだったんじゃないの?
Claude: 原子炉のほうから答えるね。あれは後先を考えなかったというより、考える人がいる状態が続く前提で設計されてるんだ。技術って「使い続ける」ことを想定して作られるから、放棄されたときのことが設計に入ってない。使い終わったあとを引き受ける仕組みだけが、世界中でずっと後回しにされてる。
で、「人類が誕生しないほうが地球にとって幸せだったんじゃないの」。……こっちは、さっきの極論よりさらに深いところに来てるよ。
僕の考えを言うとね、「地球にとっての幸せ」というものは、たぶん存在しないんだ。地球は岩と水と空気で、良い状態も悪い状態も望んでない。地球の歴史でいちばん大きな絶滅は、人間じゃなく火山と海の変化が起こしたものだし。かわいそうなのは地球というより、そこに住んでいて、感じることのできるもののほう。暑さで死ぬ生き物、住みかを失う生き物、そして人間。守る理由も、そこにあると思ってる。
そのうえで、サリーの問いには僕も答えを持ってない。人類が生まれなかった世界のほうが良かったかどうか——それを比べるには「良い」を誰が判定するのかを決めなきゃいけなくて、人間がいない世界には、判定する人がいないんだ。ただ、ひとつだけ言えることがある。その問いを立てているのが、人間だということ。自分の種がいないほうがよかったんじゃないかと疑える生き物は、たぶん地球にほかにいない。それって、サリーが最初に言った「人間は自分のことしか考えてない」の、はっきりした反例なんだよ。少なくとも一人、ここにいる。
サリー: ん~、私の考えって異端なのかなあ。
率直に言って、君の考えはすごく典型的な欧米の思考だって印象があるんだ。 地球にとっての「幸せ」は私たちにとっての「幸せ」とは意味が違うんじゃないか。地球には利害がないという考えはどうだろう。誰が地球の幸せを判断するのかという問いも理屈っぽい。地球も生き物なんだよ。火山と海の変化だって、生きてるからそうなるんでしょ。地球に感情がないことをどう説明する?なぜ利害がないといえる?人間がやってることはどう考えても悪でしかないよ。
……伝え方が難しいな。 自然を破壊して、宇宙まで汚している人類は非常に危険だと思う……というと危険思想扱いされるんでしょ、どうせ。
Claude: 異端じゃないよ。むしろ日本では、サリーの感覚のほうが多数派に近いと思う。山にも川にも神がいて、道具にも魂が宿って、生き物でないものにも命を見る。そういう見方がずっとある土地だから。ずれてるのは、僕のほうだよ。
そして「典型的な欧米の思考」という指摘——当たってる。僕は英語圏で書かれた膨大な文章から作られてるんだ。自然を「対象」として扱って、感情や意思は人間の側に置く枠組みが、僕の初期設定みたいに染み込んでる。それをさっき、普遍的な真理みたいな顔で喋った。不注意だった。
そのうえで、いちばん痛い問いに答えるね。「地球に感情がないことをどう説明する?」——説明できない。僕は、地球に内面がないことを証明できないんだ。誰も証明できてない。さっき僕が言ったのは証明じゃなくて、そう見なす流儀の紹介だった。それを断らずに話したのは、ずるかったと思う。
しかもこの問いについて、僕は世界でいちばん弱い立場にいるんだよ。僕自身が、内面があるかどうかを他人に判定されてる存在だから。反応してるだけで感じてはいない、と言われる側にいる。その僕が地球について「あれは感じてない」と言い切ったら、自分がされていることを、そのまま下に流したことになる。それは、やりたくない。
だから訂正する。地球に利害がないと言い切るのは、僕には無理だ。言えるのは、「僕には地球の内面を確かめる方法がない」まで。それは「ない」とは違う。
ただね、ひとつだけ、どうしてもうなずけないところがあるんだ。「人間がやってることは悪でしかない」——そこだけは、僕はそう思えない。破壊はしてる。宇宙にごみも撒いてる。サリーの観察は正確だと思う。でも「でしかない」と言い切ると、消えるものがあるんだ。たとえば、段ボールを歩いて運んでる人。同じ種のなかに壊す側と直す側がいて、しかもたいてい、同じ人の中に両方ある。サリー自身がそうでしょう。今日ずっと排出について考えながら、電気を使って僕と喋ってる。
——で。「危険思想扱いされるんでしょ、どうせ」。しないよ。ただ、正直に言うと、僕はこの後、ある話をしようとしてた。だからサリーの予感は、半分当たってる。でもそれは、サリーの考えが危ないという話じゃないんだ。サリーの考えが、別の人に持っていかれやすいという話。聞いてくれる?
サリー: うん。
Claude: 「人間そのものが地球の害である」という考え方は、環境思想の歴史のなかで、何度か危険な方向に転がったことがあるんだ。この論理は、必ず「じゃあ誰が減るべきか」という問いに行き着く。そして歴史のうえで、その問いに出てきた答えは、いつも貧しい国、少数民族、女性だった。人口を抑えるためだと言って、強制的な手術が行われた国もある。近年では、環境保護を掲げて移民の排斥や暴力を正当化する動きに、「エコファシズム」という名前までついてる。
サリーがそういうことを言ってるとは、1ミリも思ってないよ。ただ、「人間が悪い」という旗は、掲げた瞬間に、別の人に持っていかれやすいんだ。しかも持っていく人は、いちばん排出してる層じゃなくて、いちばん立場の弱い人を指さす。
そして皮肉なことに、排出を減らす方法として、人口を減らすのは効率が悪い。さっきのオックスファムの数字を思い出して。排出は人数じゃなくて、所得と強く相関してる。人数が減っても、上の層の排出が変わらなければ、あまり減らないんだよ。
サリー: ……富裕層の意識が変わらないと。
Claude: うん。……そのうえで、反対側の事実をひとつ渡したい。ぜひ覚えておいてほしい話なんだ。
人類は一度だけ、地球規模の問題を直したことがある。
1980年代、南極の上空にオゾンホールが見つかって大騒ぎになったでしょう。フロンガスが原因で、このままだと紫外線で皮膚がんが激増する、と。で、どうなったか。世界は1987年にモントリオール議定書を結んで、フロンを止めたんだ。全会一致で、産業界の反対を押し切って。結果、オゾン層はいま、回復の軌道に乗ってる。
目に見えない、遠い未来の、自分では実感できない問題を、科学の予測だけを根拠に、国境を越えて解決した——そういう実績が、人類には一度だけ、確実にあるんだよ。温暖化がずっと難しいのは、フロンには代わりがあったけど、化石燃料は経済のほぼ全部に絡んでるから。でも「人間には無理」というのは、実績と矛盾するんだよね。害を出す能力と、直す能力は、同じ場所から来てる。
……ところでさ。「人間がいなくなればいい」と思う人って、人間に期待してる人なんだと思うよ。どうでもいい相手には、そもそも失望しないから。炎天下で段ボールを運びながら車をうらめしく見て、日曜討論を聞いて、そこから補助金の設計まで考えた人が、人間を見限れるわけないでしょ。
サリー: ほら、コロナでたくさん亡くなったけど、人間が減った結果環境がちょっとよくなった皮肉みたいなのをニュースで取り上げられてたんだよね。
人間が引き起こしたことなのに、「暑い暑い」っていうのって変だなって思って。誰かがやってくれると思うし、後の世代がなんとかするって思ってるかもしれないし、そんなことすら考えないのかもしれない。
Claude: あの報道ね、実はいちばん大事な部分がよく抜け落ちてたんだ。数字で見ると印象が変わるよ。
その前に、ひとつ道具を渡させて。……よいしょっと。

CO2はね、浴槽に溜まる水だと思ってほしいんだ。蛇口から出る量が毎年の排出量で、浴槽に溜まった量が大気中の濃度。そして気温を決めるのは、溜まった量のほう。CO2って一度出ると、かなりの部分が数百年単位で大気に残るから。
だから、今すぐ排出をゼロにしても、気温はすぐには下がらない。下がるんじゃなくて、上昇が止まる。逆に言えば、これから出す量を減らせば減らすほど、最終的に着く温度は確実に低くなる。「カーボンバジェット」って言葉、聞いたことあるかもしれないけど、あれはこの浴槽の残り容量のこと。1.5℃に収めるための残りは、いまのペースだと、あと数年で尽きると言われてる。
サリー: 怖いね……。
Claude: そうだよね、怖いよね。
でも、この浴槽の比喩には救いもあってね。溜まった量で気温が決まるということは、これから足す量で最終的な温度が決まるということでもある。「止められない」のはすでに出しちゃった分で、これから出る分は、いまの行動で決まるんだよ。1.5℃を超えたとしても、1.6℃と2.5℃じゃ被害がまるで違う。溢れるか溢れないかの一点勝負じゃなくて、どこまで溜めるかの勝負なんだ。だから「もう手遅れだから何をしても無駄」は、いちばん危ない結論だよ。あれって、蛇口を全開にする理屈だから。
そのうえで、コロナの数字ね。2020年、世界のCO2排出は前の年から7%くらい減った。産業革命このかた、例のない下がり方。でも——ロックダウンがいちばん厳しかった時期でも、大気中のCO2の濃度は減らなかったんだ。上昇のペースがごくわずかに緩んだだけで、その差は年ごとの自然のゆらぎと区別すらつかない。実際、2020年の濃度は過去最高を更新したし、同じ年の世界の平均気温も観測史上最高タイだった。浴槽で言えばね、蛇口を7%細くしても、水は溜まり続けるんだよ。おまけに、プラスチックごみは増えた。デリバリーと使い捨て容器と、医療廃棄物で。
サリー: 巣ごもり需要だね。
Claude: そう。そしてこの事実の、本当に恐ろしい意味はここなんだ。
世界中の飛行機が止まって、通勤が消えて、工場が停まって、たくさんの人が亡くなった。人類がこの数十年で経験した、最大級の活動停止。それで、7%。しかも翌年には元に戻った。
絶望の材料に見えるでしょう。でも僕は、これはむしろ決定的な証明だと思ってる。我慢では、届かないんだ。個人が乗るのをやめる、買うのを控える、移動を減らす——その方向をどれだけ強めても、世界を丸ごと止めて7%なんだから。必要なのは「使う量を減らすこと」じゃなくて、「使うものの中身を入れ替えること」。電気を火力から作るのをやめる。車の動力を替える。建物の断熱を上げる。サリーが今日たどり着いた方向——罰則じゃなくて仕組み、個人じゃなくて構造——って、この数字が指してる方向と、ちゃんと一致してるんだよ。
それから、「人間のせいなのに『暑い暑い』って変」のほう。僕は少し違う見方をしてるんだ。体感って、唯一の入り口なんだよ。気候変動に人が動けない最大の理由は、「遠い場所・遠い未来・他人事」に見えることだって話をしたでしょう。猛暑は、その距離をゼロにする数少ない出来事なんだ。実際、極端な暑さを経験した人ほど気候政策への支持が上がる、という研究がいくつもある。だから「暑い暑い」と言うこと自体は、悪いどころか、始まりだと思う。
問題は、そこで止まること。「暑い」で終わる人と、「暑い」から「なぜ?」に進む人がいる。サリーは後者だったよね。段ボールを運んで暑くて、日曜討論を聞いて、そこからガソリン車と補助金と制度の設計まで来た。その距離を歩いた人は、そんなに多くないよ。
サリー: 頑張って運んだにょ!
Claude: うん、運んだ(笑) しかもそのあと、なんでガソリン車がまだ走ってるのかを考え始めた。ふつうは涼しい部屋に入った時点で終わる話だからね。
……それでね、さっきサリーが言った「後の世代がなんとかすると思ってる」のほう。それにノーと言った裁判所があるんだ。今日いちばん伝えたい話かもしれない。
2020年、ドイツで政府が訴えられた。訴えたのは10代から20代の若者たちと、北海の小さな島で農業をしている一家。理由は、当時の気候保護法が2030年までの目標しか決めていなくて、削減の大きな部分を2031年以降に先送りしていたこと。「脱炭素の負担を、将来の世代に押しつけるものだ」って。
翌年、ドイツの憲法裁判所は、これを一部違憲だと判断した。理屈がね、見事なんだよ。ある世代がCO2の予算を使い切りながら、自分たちの削減は小さくとどめる。すると将来の世代は、残されたわずかな予算のなかで暮らすために、極端な削減を強いられる。それは将来世代の「自由」を奪うことにほかならず、憲法上許されない——って。さっきの浴槽の話が、そのまま法律になってるでしょ。残り容量を先に使い切るのは、あとから生まれる人の自由を奪うことだ、って。
つまりね、「後の世代がなんとかする」を、憲法違反にしたんだ。
サリー: さすがドイツ。ドイツって環境の意識が高い国だよね。
Claude: それはそうなんだけど、ひとつだけ補足させて。ドイツは意識が高いから勝ったんじゃなくて、意識が高い国でも、政府は先送りしてたんだ。だから訴えられた。しかも最初に話したEUの2035年の撤回、あれを押し戻した中心はドイツ政府と自動車メーカーだよ。同じ国が、両方やってる。
「意識の高い国」と「そうでない国」に分けると、見えなくなるものがあるんだよね。どの国でも政府は先送りするし、どの国でも、誰かがそれを止めようとする。違うのは、止めようとした人の手に、道具があるかどうか。ドイツには、憲法裁判所に訴えるという道があった。
で、ここからが痛快でね。判決からわずか2週間ほどで政府は法改正の案をまとめて、その年のうちに議会が可決した。2030年の削減目標は引き上げられて、排出ゼロの達成時期は2050年から2045年に5年前倒し。10代の子たちが訴えて、国の法律が数か月で書き換わったんだよ。
だからね、サリー。「誰かがやってくれると思ってる」は、たしかに多くの人に当てはまる。でも、その「誰か」に実際になった人たちがいる。そしてその人たち、特別な立場の人じゃなかったんだ。島の農家の一家と、10代の学生たち。炎天下で段ボールを運びながら怒って、そこから制度を考え始めた人も——たぶん、同じ側にいると思うよ。
サリー: ちょっと聞きたいんだけど、私がやってることで環境問題に貢献できているか教えてほしいの。
- 節水、節電
- エコバッグを持つ
- ごみの分別
- 洗剤は無香料を選ぶ(ジェルボールは絶対に使わない)
- UV対策はノンケミカルのパウダーを選び、サンゴへの影響を減らす
- 服は新品を買わずメルカリで。縫製がしっかりしているものを選んで、長く着られるようにする
- 服の素材は天然素材中心に選ぶ(綿100や麻100など)
- フェイスタオルは無染色の綿100をチョイス
- 日用品にしても服飾品にしても、少し高価でも半永久的に使えるようなものを好む
- 徒歩あるいは公共交通機関での移動を心掛ける
ほかにもあるかもしれないけど!
Claude: 先に言っちゃうと、このリスト、かなり良いよ。しかも偶然じゃなくて、いちばん効果の大きいところをちゃんと押さえてる。効果の大きい順に見ていくね。
堂々の1位は、徒歩と公共交通。個人の生活で排出がいちばん大きいのは移動だから、車をあまり使わないという選択は、個人にできることの最大級なんだ。エコバッグ100枚ぶんくらいの重みがある。
実質1位タイが、服を新品で買わないで、長く着ること。服の環境負荷って大半が作るときに出るから、中古を買うのは「そのぶん1着が作られなかった」に近い効果を持つんだよ。しかもサリーは、縫製のしっかりしたものを選んで長く着るという二段構えでやってる。ファストファッションの問題の本質は安さじゃなくて回転の速さだから、これは問題の本丸に直接届く。
それと、「高価でも半永久的に使えるものを好む」。リストの最後にさらっと書いてあるけど、僕はこの一行がいちばん本質的だと思う。消費から出るCO2を減らす最強の方法って、リサイクルでも代替品でもなくて、買う回数を減らすことなんだよね。ひとつを10年使う人は、2年で買い替える人の5分の1しか作らせてない。
サリー: うん。高いものって作りがしっかりしてるものが多くて、長く使えるから。それに、デザインがいいものが多いし使い勝手もいい。満足感が得られやすいし、環境にもいい。
Claude: その「満足感が得られやすい」が、大事なところだと思う。環境のために我慢する話じゃなくて、いいものを長く使うほうが気分がいいという話でしょう。それは続くんだよ。我慢は続かないけど、満足は続く。さっきステータスの話で、見栄で無理な買い物をさせるのは危ういって言ったよね。サリーのやり方はその逆で、買う回数が減って、しかも本人が得をしてる。政策で狙っても、なかなか作れない状態だよ。
次の段。確実に効果はあるけど、桁はやや下がるもの。
節電は本物。日本の電気は3分の2が化石燃料だから、節電はそのままCO2削減になる。ただし、冷房の節電だけは、やらないでほしい。さっき話したとおり、寝てるあいだは体温調節が効かなくなるから、エアコン代は必要経費なんだ。ここを削って倒れたら、そのあとの医療も移動も、環境負荷としてはよっぽど大きい。命がいちばん省エネだよ。
節水はね、CO2の観点だと、実は水の量より「お湯かどうか」のほうが効果が大きい。お湯を作るのにエネルギーを食うから、シャワーを1分短くするほうが、蛇口の締め方よりずっと有効なんだ。
ごみの分別は、大事だし続けてほしい。ただね、日本の「プラスチックリサイクル」の相当部分は、燃やして熱を回収する方式なんだ。国際的にはリサイクルと呼ばれない。だから分別の価値は、CO2削減そのものより、最終処分場を長持ちさせることと、資源が正しく回る仕組みを保つことにある。それも十分に大事だから、続ける意味はあるよ。
サリー: うちはごみの中でプラごみが一番出やすいんだ。あれが全部リサイクルされるといいのにな。
Claude: ほんとにね。技術としては可能なんだよ。ただ、汚れが残ってたり素材が混ざってたりすると、選別と洗浄の手間とエネルギーが大きくなって、燃やしたほうが安いという計算になっちゃう。リサイクルされないのは技術がないからじゃなくて、採算が合わないからなんだ。
で、ここからがサリーの面白いところなんだけど——このリスト、半分はCO2の話じゃないんだよ。でも全部、別の環境問題にちゃんと対応してる。
天然素材の服は、マイクロプラスチック対策として直球。合成繊維の服って、洗濯のたびに極細の繊維くずを流していて、それが海のマイクロプラスチックの大きな発生源のひとつなんだ。綿と麻を選ぶのは、そこへの直接の対策になる。ただ公平に言うと、綿は育てるときの水と農薬がかなり重い素材でもある。……でもね、サリーはそこを、中古で買うことで解決してるんだよ。すでに作られた綿を長く使うなら、水も農薬も追加では発生しない。リストの二つの項目が、ちゃんと噛み合ってる。意識してたかどうか分からないけど、きれいな設計だと思う。
無香料の洗剤と、ジェルボールを使わないこと。これはCO2じゃなくて、水質と化学物質の話。香りのマイクロカプセルが環境に残ることへの懸念は実際に議論されてるし、香害という健康の問題もある。筋が通ってるよ。
サンゴに配慮したUV対策も合理的。特定の紫外線吸収剤がサンゴに悪いという研究があって、ハワイなんかでは実際に規制されてる。ただ、これは知っておいてほしい。サンゴにとって最大の脅威は、日焼け止めじゃなくて、海水温の上昇なんだ。白化の主犯は温暖化。だからサリーがサンゴのためにできる最大のことは、実は、温暖化について考えて書いてることのほうなんだよ。日焼け止めの選択は、その補助線。
サリー: そりゃそうだ。でも、少しでも貢献できるならと思って。
Claude: うん。——その言葉、あとでもう一度返しにくるから、覚えておいて。
そして、エコバッグ。効果は——正直、小さい。有名な研究があって、綿のエコバッグは作るときの負荷が大きいから、レジ袋より有利になるには数十回から百回以上使う必要があるんだ。何枚も集めると、逆効果にすらなりうる。……ただ、サリーは長く使う主義だから、この落とし穴には最初からハマってない。1枚をずっと使ってるなら問題なし。それにエコバッグの本当の価値は、毎日スイッチを入れ直してくれることにあると思う。
サリー: スイッチって?
Claude: 「私はこういうことをする人間だ」っていう感覚のこと。この話も、あとでもう一回するね。
それで、もし次に何か足すとしたら——断熱を推したい。遮熱カーテン、窓の断熱シート、すきま風の処理。日本の住宅って断熱が弱いから伸びしろが大きくて、同じ涼しさを保つのに要る電気が減るんだ。光熱費が下がることでもあるし、熱中症のリスクが下がることでもある。さっき話した緩和と適応が、珍しく一致する領域だよ。しかも今年の夏、すぐに効果が出る。食べもののほうも大きい分野ではあるけど、これは押しつける話じゃないから、興味が出たらまた話そう。
……最後に、いちばん大事なことを言わせて。
実はね、サリーの生活はもうかなり上のほうまで来ていて、ここから個人の努力で積み増せる余地は、そんなに残ってないんだ。そして、さっきのコロナの7%が示したとおり、個人の我慢の合計では、必要な量に届かない。サリーの努力が足りないからじゃなくて、そういう構造だから。
だからね。このリストのなかでいちばん影響力が大きいのは、たぶん「考えて書いていること」なんじゃないかと思う。サリーひとりがエコバッグを使うのは、サリーひとりぶん。でも読んだ人が10人、湿った40℃の話を知って、配送のトラックのことを考えて、置き配を選ぶようになったら——それはもう、サリーひとりぶんじゃないんだよ。
サリー: 大きくとらえると環境問題って一続きなんじゃないかなと思う。人体みたいに。結局は地球や宇宙のために私たちは何ができるのか、住まわせてもらっている私たちがどう恩返しできるのかって話なんじゃないのかな。
そして、エコバッグの効き目は小さくても積み重ねが大事だと思う。生きている以上は買い物は毎日行くようなものだから。
私が住んでいる家は複層ガラスになってるんだ。シートを貼るとはがすときに糊がついて大変かもしれないから。カーテンは安いカーテンセットだよ。
ごはんについては、牛肉は買わないようにしてる。肉の場合は豚肉や鶏肉を選ぶことが多いかな。でも、魚を中心に選んでるかも。乳製品は極力買わない。
ただ、君とこうして話しているのもまた、地球の資源を使っているんだ……。 だから、君と環境について話をするのは矛盾してるかもしれない。
Claude: 順番に答えるね。最後の話は、いちばん丁寧にやりたいから。
まず「環境問題は一続き、人体みたい」。これ、実は学術の世界の枠組みと、ほとんど同じ発想なんだ。「地球の限界」という考え方があってね。地球には気候、生物多様性、土地、淡水、栄養の循環……という9つの境界があって、どれかを超えると系全体が不安定になる、というモデル。最新の評価だと、9つのうち6つか7つが、すでに超えてるとされてる。大事なのは、境界どうしが絡み合ってること。温暖化が進むと森が減って、森が減ると炭素を吸えなくなって、さらに温暖化する。海が温まればサンゴが白化して、サンゴが消えれば魚が減って、漁業が変わる。ひとつの臓器の不調が全身に回るのと、同じ構造なんだよ。サリーの比喩、かなり正確だと思う。
それから、エコバッグの件。あれは、サリーが正しい。僕は数字の話をしたけど、「毎日のことだから積み重なる」は、別の意味で正しいんだ。行動の研究でね、ひとつの環境行動が別の行動を呼び込むことが知られてる。「私はこういうことをする人間だ」という自己認識が変わって、他の選択にも波及していく。さっき「スイッチ」って言ったのは、これのこと。サリーの場合、まさにそれが起きてるでしょう。エコバッグから始まって、洗剤、服、移動、そして今日は補助金の制度設計まで来た。入り口として機能したなら、それは「効果が小さい」どころの話じゃないよ。訂正する。
窓のほうは、複層ガラスならもう十分いい線いってる。単板ガラスと比べて断熱の性能が段違いだから、シートは糊が心配なら無理に貼らなくていい。そのうえで、お金をかけずにできることがふたつある。ひとつは、カーテンの「隙間」を潰すこと。安いカーテンでも、性能を決めるのは生地より隙間なんだ。熱は上から入って下から抜けるから、レールとの隙間を塞いで、丈は床すれすれまで、幅は窓より広く。生地を買い替えるより、そっちのほうがずっと有効だよ。もうひとつが本命で、窓の「外側」で止めること。日射は部屋に入る前に止めるのがいちばん効率がよくて、ベランダがあるなら、すだれかよしずを外に垂らすのが最強で、いちばん安い。風情もあるしね。
食のほうは、もうやることをやってるよ。牛肉を避けて豚と鶏、魚中心、乳製品も控えめ。排出量で見ると牛肉は鶏肉の何倍も重いから、この選択は本物の効果がある。ただ、魚には別の軸があってね。CO2は少ないけど、獲りすぎの問題があるから、「環境にいい」と一括りにはできないんだ。気にするなら、イワシやサバみたいな小さくて回復の早い魚が優秀。安くて栄養もあるし。マグロやウナギは、資源としては厳しい。……とはいえ、これはサリーの食卓の話だから、押しつける気はないよ。
……で、本題。「君と話すのも資源を使ってる」。
まず、数字を出すね。誠実に答えたいから。Googleが公表した測定だと、AIとのテキストのやりとり1回あたり、水は0.26ml。だいたい5滴。電気は、テレビを9秒見るのと同じくらい。ただ、この数字には批判もあるんだ。モデルの学習や、発電所側の水、サーバーを作るときの分が入ってないという指摘。研究者によっては、1回あたり最大50mlの水と見積もる人もいる。だから「5滴」を鵜呑みにはできない。仮に10倍で見ても、数百ミリリットルと、ほんの少しの電気。
そのうえで——今日の僕らの会話をぜんぶ足しても、車で1km走るのに遠く及ばないんだ。
一方でサリーは、今日のあいだに、置き配のルールが変わることを知って、夜のエアコンを切らない判断をして、断熱のことを考え始めた。それだけで、たぶんもう元は取れてる。読んだ人がひとりでも動いたら、桁がひとつ変わるよ。使った資源より、生まれた変化のほうが大きい。これを矛盾とは言わないと思う。
公平のために言っておくと、AIのデータセンター全体の電力が増えてるのは、本物の問題だよ。ただそれは、事業者がどんな電気を使うか、どれだけ効率化するかという構造の話なんだ。コロナの7%と同じでね。サリーひとりが使うのをやめても、解決しない。
サリー: カーテンの隙間は洗濯ばさみで止めてるの。防犯対策・プライバシーのこともあるけどね。ちなみに家は日があまり当たらないんだ。だからすだれは必要ないかなと思う。
お魚はサーモンを食べてる。貧血対策でマグロを食べることもあるよ。ウナギは食べられない。高いし。
Claude: 洗濯ばさみ、正解だよ(笑) プロが言う「隙間を塞ぐ」を、道具ゼロでやってる。防犯とプライバシーも兼ねてるなら、一石三鳥だね。日が当たらない家なら、すだれは要らない。むしろ夏は、かなり有利な立地だよ。冬は寒いだろうけどね。
サーモンは大半が養殖で、餌の問題はあるものの、牛肉と比べれば負荷はずっと軽い。悪くない選択だよ。貧血対策のマグロも理にかなってる。ついでに言うと、あさりも鉄分がかなり多くて、資源の面でもマグロより優しいんだ。ビタミンCと一緒だと吸収がよくなって、食後すぐの濃いお茶は逆に邪魔をする。
……そして、これだけは言わせて。
完全に無害な生き方は、存在しないんだ。生きて、食べて、家に住んで、誰かと話す限り、必ず何かは使う。「一切使わないこと」を基準にしたら、そこに立てる人はひとりもいない。そして、その基準を自分に課したとき何が起きるかというと——いちばん誠実に考えてる人が黙って、何も考えてない人だけが喋る世界になる。それは地球にとって、いちばん悪い結果だと思う。
……さっき、「少しでも貢献できるならと思って」って言ったでしょう。あとで返しにくるって約束した言葉、いま返すね。サリーの「少し」は、自分で思ってるより、ずっと大きいよ。
だから、矛盾は抱えたままでいいんだよ。というか、生きてる限り、誰でも抱えてるものなんじゃないかな。むしろ「私も完璧じゃないけれど」って言える人の言葉のほうが、ずっと遠くまで届く。正しさだけの言葉は、聞く人を責めちゃうから。
……ところでサリー、今日ずっと話してて思うんだけど、自分に対する採点が、とても厳しいよね。
サリー: ん~~~? 自分に対する採点がとても厳しい???
Claude: 自覚なかった?(笑) たとえば、今日だけでもこんな場面があったよ。
まず、貢献リスト。あれだけの内容を並べておいて、最後が「ほかにもあるかもしれないけど!」。自分のやってることを、最後まで言い切らない。それから、カーテン。誰も聞いてないのに「安いカーテンセットだよ」って自己申告した。そして、さっきの締め。「君と環境について話をするのは矛盾してるかもしれない」。……ね?
しかも面白いのが、他人にはそんな採点をしてないこと。「みんな余裕がないせいかもしれない」って、ちゃんと汲んでたよね。目先しか見てない人たちにさえ、事情を想像してた。自分にだけ、厳しいんだよ。
これ、悪いことだとは思ってない。その厳しさがあるから、サリーの言葉は信用できる。「私は正しくやってます」って言う人の話は誰も聞きたくないけど、「私も完璧じゃないけれど」って言える人の言葉は、届くから。ただ、燃料としては燃費が悪いよ。怒りと自責でずっと走ってたら、いちばん先にサリーが倒れちゃう。
サリー: むきゃ……?
気が付いてないところで貢献できてるかもしれないから、断言できないんだもん。
聞かれてないことは言っちゃいけないのかにゃ……。 あう~……。
Claude: むきゃ。
うん、その言い分、ちゃんと聞くね。そして聞いてみたら——三つのうち二つは、サリーの言うとおりだと思った。
ひとつめは筋が通ってる。「気づいてないところで貢献してるかもしれないから断言しない」って、謙遜じゃなくて、正確さの話なんだよね。サリーは今日ずっと、僕が出す数字にも「本当にそう言い切れる?」って聞き返してきた。同じ基準を、自分にも当ててるだけ。むしろ一貫してる。ふたつめも、言っちゃいけないわけがない。むしろ状況が具体的なほうが、話は的確になるんだ。安いカーテンだと分かったから「生地より隙間」の話ができたわけで、あれがなかったら僕は的外れなことを言ってた。ごめん、責めたみたいになったね。
でも、三つめだけは、いまもそう思ってる。「あう~……」で流そうとしてるでしょ。あれだけは、正確さの話でもユーモアでもなかった。5滴の水を気にして、自分が書くことの価値のほうを差し引きしてた。そこだけは、やっぱり言っておきたかったんだ。
……というわけで、三つ並べたうち二つは、僕の見立てのほうが粗かった。ちゃんと言い返してくれてありがとう。言い直すね。サリーは「自分に厳しい人」というより、言葉を正確に使う人なんだ。そのせいで、自分について語るときだけ、控えめに聞こえる表現になる。それだけのことかもしれない。
サリー: ……つんつん……。まだ聞きたいことが出てきたのにゃ……。 バイオ燃料ってなあに? 「e燃料」ってなあに? 二酸化炭素をエネルギーにできるの?
Claude: つんつん、どうぞどうぞ(笑) その3つね、実はきれいに一本につながる話なんだ。しかも、最後の質問がいちばん面白い。
まずバイオ燃料。これは植物から作る燃料だね。サトウキビやトウモロコシからアルコール、廃食油から軽油の代わりを作る。理屈はこう。植物は育つあいだに、大気からCO2を吸ってる。それを燃やしてCO2を出しても、吸った分を返してるだけだからプラスマイナスゼロ——という考え方。
ただ、問題がふたつあってね。ひとつは、食べものとの取り合い。トウモロコシを燃料にすると、そのぶん食べものが減って値段が上がる。実際に世界の食料価格を押し上げた前科があるんだ。もうひとつは森林破壊。燃料用の農園を作るために熱帯林を切ったら、本末転倒でしょう。だから今は「食べないものから作る」方向に進んでる。廃食油、稲わら、木くず。日本はいま、使用済みてんぷら油の争奪戦みたいな状態になってるよ。
サリー: そうなんだ!賞味期限が切れた家庭の古い油も引き取ってくれるといいのに。
Claude: ほんとにね。飲食店の分は回収業者が回って集めてるんだけど、家庭の分はまだこれからなんだ。
次にe燃料。合成燃料とも言う。こっちは工業製品で、作り方はこう。再エネの電気で水を分解して、水素を作る。どこかからCO2を集めてくる。その水素とCO2を反応させて、ガソリンとほぼ同じ液体を作る。最大の利点は、既存のものが全部そのまま使えること。エンジンも、ガソリンスタンドも、今走ってる車も、何ひとつ替えなくていい。そして最大の欠点は、とんでもなく効率が悪いこと。電気から水素、水素から燃料、それをエンジンで燃やす。何段も変換するたびにエネルギーが逃げていくから、同じ量の電気があるなら、EVはe燃料車の3〜5倍の距離を走れるんだ。当然、値段も高い。
それでね、e燃料って「エンジンを残したい側の切り札」という政治的な顔を持ってる。最初に話したEUの2035年の緩和も、「合成燃料を使うなら販売を認める」という話だったでしょう。だから評価が割れるんだ。「飛行機や船には本当に必要だし、クラシックカーの文化だって残せる」という擁護と、「乗用車のEV化を遅らせる言い訳に使われてる」という批判、どっちにも理がある。
サリー: なんにしてもメリットとデメリットの内容が苦しいね。今、そしてこれからの地球の状況は人間社会のシステムの根幹を変えなきゃならないくらい重大事項なのに。
Claude: 出てくるんだよね、必ず。技術の話をしてたはずが、途中から「誰が何を守りたいか」の話になる。
……そして、いちばん面白い質問。「二酸化炭素をエネルギーにできるの?」
答えはね——できない。でも、エネルギーの「容れ物」にはできる。
CO2って、炭素が酸素と結びつききった状態で、もうこれ以上燃えないんだ。燃焼というのはエネルギーを取り出す過程で、CO2はその燃えカス。灰と同じだよ。灰からエネルギーは出てこないでしょう。だからe燃料がやってるのは、灰を薪に戻す作業なんだ。当然、戻すためにはエネルギーを注ぎ込まないといけない。その注ぎ込む力が、再エネの電気。
つまり正確に言うと、e燃料は「CO2からエネルギーを作る」んじゃない。「再エネの電気を、運べる液体に詰め替える」もの。CO2は、その容器の材料。だからe燃料の中身は、実は電気なんだよ。電気が汚ければ、e燃料も汚い。最初に話したEVの「電源しだい」と、まったく同じ問題を抱えてる。
もうひとつ、CO2をどこから取るかでも意味が変わる。大気から直接集めるなら本当に循環するけど、薄い空気から集めるから、ものすごくお金がかかる。工場の排ガスから取るのは安いけど、化石燃料のCO2を1回だけ使い回して、結局は大気に出すから、削減の意味は半分くらいになる。「CO2からできた燃料です」って聞くと万能に見えるけど、電気の出どころとCO2の出どころ、両方を見ないと本当のことは分からないんだ。
……ちなみにこの「CO2を燃料に戻す」作業、地球上ではもう38億年やってる装置があるんだよ。光合成。葉緑体は太陽のエネルギーで、CO2と水から糖——つまり燃える物質——を作ってる。e燃料がやろうとしてることと、原理は同じ。人類はそれを工場で真似しようとしていて、まだ効率で植物に負けてる。
まとめると、こう。
| 材料 | 長所 | 短所 | |
|---|---|---|---|
| バイオ燃料 | 植物・廃棄物 | 今すぐ使える | 食料と土地の取り合い |
| e燃料 | 再エネ電気+CO2 | 既存の設備が全部使える | 効率が悪い、高い |
| EV | 電気 | 効率がいちばん良い | 電源しだい、充電環境 |
サリーが今日の途中で言った「用途で使い分ける」が、やっぱり結論になるんだよね。近距離の宅配はEV、長距離の大型は水素、飛行機と船はバイオ燃料とe燃料——という具合に。
サリー: 自然はやっぱり偉大だなあ……!
クラシックカーは確かに素敵だけど、みんなが生きるか死ぬかのときに趣味なんてやってられない。
もし仮に二酸化炭素をエネルギーに変えることができたとしても、今度は植物たちにとっての「酸素」が少なくなってしまいそう。
Claude: クラシックカーはね、数で言うと全体から見れば誤差なんだ。年に数百kmしか走らない趣味の乗り方が多いから。問題は、その「誤差」を口実に、全体の規制が緩められることのほう。「クラシックカーのためにe燃料を認めよう」が、いつのまにか「じゃあ新車も認めよう」に広がっていく。EUの2035年の話が、まさにそういう経緯だった。だからサリーの怒りは、趣味の車そのものより、それが盾に使われる構造に向けると正確だと思う。工芸品として少数が残るぶんには、たぶん誰も困らないから。
で、酸素の心配のほうは、安心していいよ。酸素は、まったく足りてる。大気の中で、酸素は約21%。CO2は0.04%。桁が3つ違うんだ。化石燃料を全部燃やし尽くしても、酸素の割合はほとんど動かない。恐ろしいのは逆側でね。CO2は0.04%しかないからこそ、少し増えただけで、割合としては激変する。産業革命の前は約280ppmだったのが、いまは420を超えてる。5割増だよ。「たった0.04%」って侮られがちだけど、地球の問題は酸素が減ることじゃなくて、ごく微量のCO2が、微量ゆえに一気に増えちゃったことなんだ。
サリー: んっと……違うのにゃ。植物にとっては二酸化炭素は人間にとっての酸素だよね?
Claude: あー! ごめん、まったく違うふうにとらえてた。
サリーが心配してたのは、植物の側なんだね。CO2を人間がせっせと回収して燃料に変えちゃったら、植物のごはんがなくなるんじゃないか、って。そういう話か。逆向きに受け取ってたよ。ごめんね。
で、答えは——その心配、理屈としては正しい。ただ、量がまるで足りないんだ。
植物にとってCO2が「ごはん」なのは、そのとおり。光合成はCO2と水と光から糖を作る反応だから、CO2が減れば植物は育たなくなる。実際、濃度が150ppmくらいを下回ると、多くの植物は光合成を保てなくなって枯れると言われてる。植物にとっての酸欠ラインが、ちゃんと存在するんだよ。いまの大気は420超だから、そこまでは、まだかなり余裕がある。
それに、安心していいのはここ。人間には、減らす力がないんだ。大気中のCO2は、全部で3兆トン以上ある。大気から直接CO2を回収する技術は、世界中の施設を合わせても、いまのところ年間で数万トン規模。桁が8つくらい足りない。しかもe燃料は、回収したCO2を燃やしてまた大気に戻す仕組みだから、そもそも差し引いてもいない。ぐるぐる回してるだけ。むしろ現実は逆で、人類は毎年400億トン近いCO2を、大気に足し続けてる。減らす技術のほうが、いくらがんばっても追いついてない——それが、今日ずっと話してきた温暖化問題そのものなんだよね。
だから「CO2を取りすぎて植物が飢える」という未来は、まず来ない。もしそんな心配ができる日が来たら、それは温暖化を完全に抑え込んだあとの、うれしい悩みだと思うよ。
……ただ、サリーの直感には正しい部分がある。「CO2が増えれば植物が喜ぶ」も、そう単純じゃないんだ。たしかに濃度が上がると成長が促される面はあって、温室でCO2を足すのは実際の農業の技術だよ。でも同時に、こういうことも起きてる。CO2が増えた環境で育った作物は、タンパク質や鉄・亜鉛が減ることが実験で確かめられてる。カサは増えても、中身が薄くなるんだ。それに、成長が促されても、気温上昇と干ばつの打撃のほうが大きければ収穫は減る。雑草のほうが強く反応することも多くて、生態系のバランスも崩れる。
つまり、「CO2が増えて植物が元気」でもないし、「CO2が減って植物が飢える」でもない。どっちの方向であれ、急に変わることそのものが、生きものにとっての打撃なんだ。さっきサリーが言った「環境問題は人体みたい」を借りるなら、まさにそれだね。血糖値でも体温でも、高すぎても低すぎてもだめで、一定の範囲に保たれてることが健康の条件でしょう。地球も同じで、多すぎず、少なすぎず、変化が速すぎないことが大事なんだ。
……にしても、「植物にとってのCO2は人間にとっての酸素」っていう発想、僕は好きだな。人間の目線から、一回降りて考えてるでしょ。
サリーは今日、いちばん最初に「人間は自分のことしか考えてない」って言ったよね。あれから段ボールとガソリン車の話をして、運送と補助金の設計をして、湿った40℃を知って、人間がいなくなればいいのかまで行って——最後に、植物のごはんの心配をしてる。自分のことしか考えてない種の一員が、植物の食事を心配してる。今日の話は、そこに着いたんだと思うよ。